| ○今までの仕事
会社に届く様々な郵便物、宅配物を各部署ごとに振り分けて配布すると同時に、会社から発信する郵便類を取りまとめてポストへ投函もする、いわゆるメールサービス。
他は社内各部門より送られてくる物品請求書に従い、事務用品や来客用お茶、洗剤などの物品を倉庫から払い出し、調達する。備品倉庫の中の在庫が少なくなれば上司の承認を得て、発注業務も行う。これが、那津子さんの主要業務だ。
残念ながら難易度が高い仕事とはいえず、また高卒ということもあり、今の会社では昇進や自分の能力を生かした仕事を任せられることは難しいと感じている
○ 那津子(なつこ)さんの「新風」・・・
“取引先の現場信用調査”、“昔ながらの付き合いは、ご法度!”を唱える。
那津子さんは、「ウーマン商事」を1年後に退職する決意をする。もっと自分の能力を生かせる企業へ転職するためだ。ただ、このまま何の進歩もなく退職しては当然転職先も見つからない。そこで、今勤務している会社に置き土産代わりに貢献をしようと決心する。毎日配達される膨大な数の郵便物・・・送り主である企業は、どの方面で自社に関わっているのだろう?このまま取引を続けても良い企業なのだろうか?こんな疑問から、那津子さんは独自の調査を開始することにした。封筒の表書きに「見積書在中」「納品・請求書在中」と記載があるものは、「当社の仕入先」だと判断出来る。だいたいいつも同じ業者からのものだ。さて顧客は?那津子さんは当社から発信される郵便類のポスト投函もしているので、封筒の表書きに「見積書在中」「納品・請求書在中」とあるものは逆に「当社の顧客」と判断出来た。それらの企業名をメモに取り、それぞれ「顧客」と「仕入先」に分類した。まずは顧客から調査を開始した。那津子さんは顧客である企業の経営安全度がどうなのかをまず調べようと思ったのである。必要な資料は、もちろん「決算書」!
那津子さんは以前より決算書の読み方を勉強していたので、その知識を活かしてまずは数字面からの調査をしようと思ったのである。今は上場企業のみならず、多くの中小企業がインターネットのホームページ上で決算書を公開しているので、入手が容易に出来る。
ホームページから入手出来ない企業は、図書館へ出向き資料を集めた。
またこれだけに止まらず、那津子さんは直属の上司を通して営業部へ打診し、いつも営業部から郵送していた納品、請求書類の中で会社から近隣にある企業については那津子さんが直接先方へデリバリーしたい意向を伝えた。表向きの理由は「通信費削減」のためと謳ったが本当の目的は、会社の将来と安全のために奥深い「信用調査」をしたかったためである。那津子さんの熱意が伝わり、上司の協力も得てめでたく実現できた。
納品・請求書を渡すことを口実に得意先の担当部署へ赴き、従業員の応対や事務所の雰囲気までチェックしたのである。こうして得意先企業の経営安全度を様々な観点から判定し、独自の資料をまとめ上げた。
努力の甲斐あり、那津子さんの資料は晴れて部外でも認められることとなった。特に営業部や審査部は、以前より得意先の与信管理は行っていたものの、リサーチ会社にアウトソーシングしていた為、定期的に淡々とした書類が送られてくるだけだった。現場まで出向いて情報収集した那津子さんの資料はわかりやすく、今後の与信管理の方法を改める機会を作ったのだ。つぎは仕入先。那津子さんが日頃から係わっている物品や発注方法を洗い出した。
購入先は従前の庶務担当者より引き継いだだけで、何ら新規開拓をしてこなかった。そこで、現在使用している物品を洗い出し、その物品の納入業者のライバル数社より見積りを依頼した。業者によっては品質の善し悪し、価格とも高低があったが、業者同士の競争原理を働かせることにより、良い条件のもとで従来の業者とも、引き続き取引をしていくことになった。
○ 那津子さんが、会社に与えた利益。
いままで、あまり重要視されていなかった顧客の与信管理を再度見直すことになった。売掛金の回収を徹底し、要注意な顧客からは早期回収を図るなど、会社の債権をより慎重に扱うようになる。会社の利益の他、債権管理の重要性を再認識させた。また仕入先についても「昔ながらの付き合い」は、完全撤廃はムリだが、消耗品ほか会社の主要仕入れとなる原材料も、商品や経営状態
、また仕入条件の良い業者に新規参入を開放することになった。その一年後、「ウーマン商事」の決算書は・・・
- 消耗品費(損益計算書の中の費用) ・・・減→ 利益アップ。
- 売上総利益(損益計算書内上段) ・・・増→ 利益アップ。
- 売掛金、受取手形(貸借対照表内の流動資産)の中の貸し倒れ予備軍(不良債権になりつつあるもの) ・・・減→ めでたく回収され、現金化に。
○ その後の那津子さん
「ウーマン商事」を惜しまれながら退職。会社に残した貢献度は、晴れて履歴書に添える「職務経歴書」に堂々と記入することが出来、最適のアピール材料となった。お陰で内定を複数の会社からもらったがなんと「ウーマン商事」の庶務部時代の直属上司よりカムバックしてくれないかと懇願される。
「納品・請求書デリバリー」の提案の際、他部門へのパイプ役になってくれた上司。
義理人情のためではないが、話だけ聞いてみることに・・・
上司から渡された人事部発信の白い紙に書かれた「新企画室組織図」そのトップにはなんと那津子さんの名前が! 会社のもしもの時に必須な「リスクマネジメント」を本格的に起動させようと那津子さんの上司が発案し、その企画室のトップに那津子さんを立たせようと思ったのである。つまり・・・庶務部当時の上司が
那津子さんの功績を高く評価し、人事部にかけあってくれた結果、めでたく那津子さんは「新リスクマネジメント企画室」の室長へと昇進したのである。
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