第14回 
同性の結婚をめぐるボストンっ子たちのバトル、第2幕

キャロライン(左)とパートナーのターニャ。州議会での投票をじっと見守っていた。

「ゲイの結婚は合法か否か」
 ボストンにある、マサチューセッツ州議会は、ここ数カ月、この命題を巡って、揺れに揺れた。全米で一番進歩的な州になるかどうかの瀬戸際で、賛成派と反対派は、まるでレッドソックス・ファンとヤンキース・ファンのように、とことん対決してきたのである。
 ふーん。あれ? ちょっと待って。サンフランシスコやニューヨーク州の一部では、もう実際に、結婚証明書を手にしたゲイやレズビアンのカップルがいるんじゃなかったっけ? どうして今更「合法」議論なの?

 こう思う方はとってもスルドイ。確かに、ゲイのカップルにも結婚証明書をバンバン発行しているサンフランシスコのような市もある。しかし、現時点では、それはあくまで個々の市長たちの判断で行われている状態なのだ。例えばサンフランシスコのあるカリフォルニア州の法律では、ゲイの結婚が正式に合法化されているわけじゃないのである。
 結婚証明書はホンモノでも、厳密に言えば、法律上は実は有効ではないという、ややこしいダブルスタンダードが存在しているのだ。
 州の最高裁が「同性の結婚を認めないのは差別」とはっきり判決を下したのは全米でもマサチューセッツだけ。つまり合法に結婚できるのはこの州でだけ、ということになりそうなだけに州憲法改正を巡って、火花が散りまくっているわけなのだ。

ゲイであること、クリスチャンであること
 ディベートのメッカと化した州議会の周りを歩いていると、こんな声を耳にした。
 「人はゲイであることを勝手に選択してるに過ぎないの。神様は最初から人間をゲイとして創ったわけではないのよ。神の法律に背く道を自分で勝手に選んだからと言って、それを合法化しちゃまずいでしょ、というのが私の信念なの。ギリシャやローマが滅びたのも、同性愛が元で無秩序が広がったのが原因なのよ」
 クリスチャンで、外国人学生に英語を教えているという女性、ギリアンの意見だった。

ゲイ・ライツ・アクティビストたちに囲まれて、ひとり異論を唱えるギリアン(左)。
 すると、その場にいた「オープン・ゲイ」でカメラマンであるパトリックが、おっとりと切り返した。
 「そうかな? 同性愛者の人口は全米の3%ぐらいでしょう。その3%のうち、実際に結婚するのはさらに少数のはず。僕なんて、もう何年もデートもしてないし。そんな少数の人間がここまで進歩した近代文明をぶち壊すことができると本気で思う? ローマが滅んだように?」
 うーん。なかなかいい反撃だ。つい足を止めて聞き入ってしまう。対するギリアンは、目をパチクリさせ、ちょっと考えてこう言った。
 「うーん、数の問題じゃないのよ。神の教えに背くことを正式に法律にしていいということになったら、麻薬も売春も合法化しようという流れになるかもしれないじゃない? その連鎖反応が社会の混沌を生むのよ」
 ふむ。彼女も感情的にならず、努めて理性的に応酬している。誰もが感情的になりがちなこのトピックで、こういう知的議論が聞けるのは、はっきり言ってすごく珍しい。
 すると横でプラカードを掲げていたゲイ・ライツ擁護派のキャサリンという女性がこう言った。
 「キリスト教では誰もが罪人じゃないの? ゲイやレズビアンだけが罪人ってのはおかしくない?」
 再びギリアンが防戦に回る。
 「もちろん私はゲイの人よりも自分が高尚だと思ってるわけじゃないわよ。みんな罪人。それは同じ。私たちは神様を通してしか救済されないの。救済されたいのであれば、やっぱり神の道を外れちゃいけないのよ」

同性の結婚反対派のサインを手に持ちじっと佇んでいる女性。州議会の扉の前で。

神の法とヒトの法
 「神の道をはずれるな」
 ギリアンのこの一言に、みんな一瞬黙ってしまった。パトリックはゲイだが、クリスチャンでもある。そんな彼にとってこの言葉は、かなりのインパクトで効いたみたいだ。
 そこで無宗教の外国人である私は、ついこう口を挟んでしまう。
 「ギリアン、それなら、クリスチャンじゃない私は地獄に行くの?」
 「う……。そ、それは……、天国には神様を通してしか行かれないんだけど……」
 言葉につまるギリアン。ふふ。ちょっと意地悪な質問だったか。
 すると横から「じゃ、離婚は? 離婚は神の道にはずれる行為だろ? それなら離婚も非合法にすべきでは?」という声が飛んだ。
 「そうねえ、離婚は確かに神様の意志には反するわね。私個人は、結婚も離婚もしたことがないから……、何とも言えないけど」とギリアン。
 よく見てみれば、その議論の輪の中には誰も既婚者がいなかった。なんとなくみんながちょっとしんみりした瞬間、パトリックが言った。
 「僕はゲイであることを選択した覚えはないんだよね。小さい時にもう普通とは違うなと気づいてた」
 うんうんとうなずく数人。苦笑いしながら首を横に振るギリアン。最後に彼女はパトリックに言った。
 「あなたの意見にはやっぱり賛成できないけれど、いい議論ができてよかったわ。ありがとう」
 そんな彼女の背中を見ながら、パトリックはこうつぶやいた。
 「ゲイの人間と話しすらしたくないっていうゴリゴリのクリスチャンが多い中で、彼女のように理性的に議論ができる人は珍しいよ。そういう意味では、ゲイに囲まれても理性を失わなかった彼女のガッツをリスペクトするね。こういう対話がもっともっと普通になればいいんだが」
 私も思わず頷いた。
 「ジャスト・ア・ビギニング(まだまだ始まったばかりよ)」とキャサリンが言った。
 5月17日。あと2週間ちょっとで、ゲイの結婚が解禁になる。本当の対話の季節がやってくるのは、その日からかもしれない。