第21回 ライフル片手に交通整理 民主党党大会の超エスカレートした警備

世界中のメディアの注目集まる民主党党大会は、アクティビストたちが活動をアピールする絶好の舞台でもある。この青年活動家は手にプラスチック・ボトルを持っていただけだったのだが、爆弾だと誤解した警察に引きずり出された(C)Paul Rice

 「アタシ、笛を買いに行くように言われたの。ボストンの店は厳重警備のおかげで軒並み閉まってるから、ケンブリッジまでひとっ走り買いに行かなきゃ」
 前々回のコラムに出てきた赤毛の同級生ニコルがこう言った。場所は、数千人のジャーナリストたちが芋洗いのようにごった返している民主党党大会の、メディア用セキュリティーゲート前だ。
 「えっ? 笛?」
 「うん、笛。テロ対策だってさ」
 大会期間中、新聞社のインターンをしているニコルは、ボスから記者50人全員分の笛を買ってくるように言われたのだという。
 「私も最初は『はあ? 笛?』て笑ったんだよね。でも、メディアパビリオンがテロの標的になる可能性が強いって情報が入ったの。だから一応結構マジな使命なんだよね」
 ガスマスクと衛星電話はすでに仮設ニューズルームに完備しており、いざ瓦礫の下敷きになった際に助けを呼べる「笛」が必要なのだそうだ。
 「テロリストは民主党大会なんかより、ブッシュの共和党大会を標的にするんじゃないか? だってその方が理に叶ってるだろ」とAP通信の写真部で丁稚奉公をしているエヴァン。

 そんな話をだらだらしながら、延々2時間以上もセキュリティーチェックで待たされている私たち取材陣。その回りを取り囲んでいるのは、スワットチームよろしく、黒づくめの防弾チョッキとヘルメットで身を固めた州警察の警官たちだ。
 まるでターミネーターみたいな威圧感のある外見の彼らの手には、短銃ではなく、迷彩色柄の正真正銘のライフルが握られている。もし今、ここで奇声を発したら問答無用で撃たれそう……。冗談ではなく、本気でそうビビッてしまうほど張りつめた緊張感。こんな気味悪さは今まで味わったことがない。

反戦運動をしていた団体に、力づくで拒絶されたスキンヘッドのネオナチ青年。「突発的な出来事」に飢えまくっていたカメラマンたちが、一斉にシャッターを切っていた(C)Paul Rice
 閉鎖された北駅のプラットホームを見上げれば、迷彩服を着た陸軍警察が立ち並び、どんな細い路地にも耳に特殊なイヤホンをつけたシークレット・サービスの面々が立つ。高い建物の上にはスナイパーのように、ライフルを手にした兵士がポツン、ポツンと配置されている。
 ふと、戦時中みたいだ、と思った。
 さて、目前でライフルと常に隣り合わせのプチ極限状態で、フツーのヒトは一体どうするでしょう?
 そう「緊張感に耐えられず、さっさと逃げ出してしまう」のでした。
 「党大会の期間中は現像サービスやってないよ! こんな厳戒態勢じゃ商売にならないから、もう現像の機械の電源を切っちゃったしね」
 党大会の会場に一番近い写真店のオヤジさんはこう言った。会場からほんの徒歩1分。本来なら、党大会景気で大繁盛しているはずの店には、なんと閑古鳥が鳴いていた。

 彼の店の隣には、高さ数メートルある黒い鉄の格子が張り巡らされ、ライフルを持った兵士や警察官が四六時中張っている。そこををくぐり抜けて店に来ようとする客は、確かにあまりいないだろう。
 「党大会で商売上がったりだ」
 たまたま乗り合わせたタクシーのドライバーもそう言った。何でも彼のタクシー会社では、 党大会の期間中、60人のドライバーに一斉に休暇を出したほどだという。

武装したポリスが守る未来の軍最高司令官候補 

 ボストンっ子の誰もが、ライフルと迷彩服に交通整理されるのにうんざりした頃、会場ではビル・クリントンがこう演説した。
 「私も副大統領もベトナム戦争に行ってない。しかし、ケリー候補はあえて自分から志願して、国を守るために戦場に行った。そんな彼こそ、次期アメリカ軍最高司令官にふさわしい!」
「War Hero」という言葉が、絶大なパワーを持っているアメリカ。大統領選のたびに、その候補が若い頃に戦場に行ったかどうかが重要なリトマス試験紙になってきた。志願して戦場に行ったとなれば「自らの手で国を守る勇敢さ」を証明したことになるのかもしれないが、戦争に行くということは他国を攻撃するということでもある。そういう「勇敢さ」を至上のものとする価値観には「ちょっと待てよ」という気になる。

会場最寄りの駅近くで、こんな警官たちがフツーに通り過ぎる、かなりフツーでない光景

 ケリー候補は、ベトナムから帰還後、米政府が軍人に真実を伝えていなかったと異議を唱え、反戦運動に積極的に取り組むようになった。
 だが、今回、党大会に集まったケリー支持者たちに実際に聞いてみると、反戦運動に身を投じた平和派のケリーに共感するという人よりも、ベトナムに志願して行き、戦闘中に仲間を救ったケリーのイメージの方が「頼れるヒーロー像としてぴったりくる」と答えた人が多かった。
 ライフルで武装した警官たちに守られた会場の中で、全米から集まった民主党員たちが、かつてのWar Heroを讃え、拍手喝采をする。
 そんな会場の雰囲気がちょっと息苦しくなってホールを出ると、壁に飾ってあった巨大な写真に目がとまった。

 それは、若きジョン・ケリーと若きジョン・レノンが反戦運動の最中に並んで写っている、セピア色の写真だった。すっきりとした表情をしているレノンの隣で、ジャンパーを着てじっと前を見据えているケリ−青年。なんだかじわっと体温の伝わってくる1枚だ。
 党大会最終日。スーツ姿のケリー氏は、大統領候補者として正式指命を受け、何万人という観衆に、司令官を思わせる「敬礼」で答えていた。