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シカゴ人たちは野球の「シカゴ・カブス」の負けに慣れているため、負けることに対する免疫は確かに、ある。だが、同じく連敗続きの「ボストン・レッドソックス」が、ワールドシリーズで快挙を飾ったのを見たシカゴ人たちは、自分たちにも奇跡が起こっていいはずじゃないか、という希望を抱いていたところだったのだ。 奇しくも、時はイスラム教のラマダン(断食)期。私がカバーするエスニックタウン、ロジャース・パークでは、断食のつらさとブッシュへの恨み辛みが重なって 「だー! もうやってられん。カナダへ移住するぞ〜!」というイスラム教徒たちの雄叫びがあちこちで聞こえる。 しかし、タダでは転ばないアラブ商人たちのこと。そのうち、マジでカナダへの大移住パッケージ・ツアーを企画販売しそうな勢いである。 今回の選挙で、マイノリティである移民たちの大多数はケリー支持だった。その気合いの入りまくり具合はちょっと例がないぐらいだった。 例えばインドから36年前にシカゴにやって来た女性、ウシャ・グプタさんは、アメリカ市民になることに抵抗があり、61歳の今まで永住権だけで通してきたが「ブッシュを落とすためだけに」市民権を獲得し、初めて投票に行き、仕事を休んで150世帯の移民たちに「投票に行きましょう」コールをかけまくった。 また、イスラエルからやってきた女性のオルリーさんは「ブッシュをホワイトハウスから追い出すためなら、ガザ地区だけじゃなくて、いっそのことエルサレムをパレスチナ人にあげちゃってもいい」と言った。
ちなみにジェシー・ジャクソンは大統領には立候補しておらず、ユダヤ教ではなくキリスト教信者だ。 つまり、それほどブッシュに入れたくない、ということなわけだ。 じゃ、移民たちがそれほどまでにブッシュを嫌う理由は何なのか? 「第一の理由は、ブッシュ政権によって、どんどん締め付けが厳しくなっている移民法。これで、彼らは怒り心頭に達しているからですよ」 そう言うのは、イリノイ州の移民と難民の権利を守るための団体で働くダン・ソーマン。テロ後、移民局はホームランド・セキュリティー省に組み入れられた。つまり、テロリスト対策のための省の直轄になったわけであり、愛国者法の成立と共に、移民の権利とプライバシーは目に見えて縮小しているのだ。 「ブッシュ再選で、移民法はどうなっちゃうんでしょう?」 移民法に詳しい弁護士に聞くと、彼はこう即答した。 「最悪だ。行くところまで行くね。キミは市民じゃないよね。ということは、はっきり言って、次の4年間、キミのプライバシーはこの国には存在しないことになるわけだ」 なんだって? そして続けて彼はもっとオソロシイことを言ったのだ。 「そうそう。ガイジンのキミの言論の自由は、この国の憲法では保証されてないって知ってる? 合衆国憲法は市民だけを守るものだから」 え〜!!! ということは、マイケル・ムーアがブッシュについて何を書こうと、彼の言論の自由は、合衆国憲法によって保証されているが、もし私が痛烈なブッシュ批判を英文で書いたら、テロリスト分子予備軍としてチェックされて、アメリカを追い出されることもあるわけ? 「そ。あり得るね」と弁護士氏。 そして、移民局関係にも詳しい彼は「国外追放になりうるケースのリスト」という移民局内部の書類をこっそり見せてくれた。 するとその中には「テロリスト活動をする可能性がある外国人」という表記があった。こんな曖昧な定義じゃ、イスラム系の友人ムハンマド君とメールを交換しているだけで、言いがかりをつけられそうだ。だけど、私もジャーナリズムの世界の端っこにぶら下がって生きている身。国外追放が怖くて記事をトーンダウンするぐらいなら、いっそ刑務所に入れられた方がましだ。
「私、アメリカ市民になるのには、抵抗ないな。むしろなりたい。昔は嫌だったけど、これからを考えたら便利だし。それに、生きにくい日本に再び帰りたいとは思わないから」。 ある日本人学生と話していたら、学生ビザの彼女はこう言った。投票の権利と言論の自由がついてくるなら、市民になるのが合理的なのかもしれないが、私は将来どのくらい長くアメリカに住んだとしても、星条旗の前で胸に手をあてて、国旗に忠誠を誓うことだけは、できない気がする。 日本人であるというアイデンティティー以上に、何かに忠誠を誓わなければならないという行為が、「踏み絵」として生理的に嫌なのだ。 そして週末、シカゴで発行されているパキスタン系の新聞社の記者とパキスタン料理を食べて、ブッシュのアホ話をしていたら、彼がチャイを飲みながら真顔でこう言った。 「あなた、その話、うちの新聞でコラムとして書きませんか?英語で書いたら、僕がウルドゥー語に翻訳しますから。ついでにあなたの顔写真も載せちゃいましょう!」 バリバリのイスラム系の新聞にブッシュに関するコラムを書いたら……。しかもその趣旨がブッシュ万歳じゃないとしたら……。一瞬、シカゴのオヘア空港から成田に強制送還されるの自分の図が頭をよぎった。確か、強制送還の費用は自分持ちじゃなかったっけ?。そんなカネないよ。 しかし、次の瞬間、私は反射的に即答していた。 「で、締め切りはいつですか?」 |