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ある日突然、誰かがあなたにこんな宣告をしたら、どうするだろう? 「嘘だああああ……!」とパニックになり走り去るか、「ほう……」と達観するか。 いや、ほとんどの人は頭の中が真っ白になってしまうんじゃないだろうか? 少なくとも私なら絶対そうだと思う。 今学期からなぜか「科学と医療の取材班」に紛れ込んでしまった私は、シカゴ大学病院の受付で、そんな妄想をむくむくと膨らませながら「ガン遺伝子の専門家」が現れるのを待っていた。 「どうもお待たせ〜。じゃ、私のオフィスへ行きましょうか?」 現れたのは、優しいお姉さんという感じのシェリー。遺伝子の専門家、と聞いて、勝手に想像していたのは、白衣に身を包んだマッド・サイエンティストみたいな男性だっただけに、このギャップが何とも新鮮だった。 「うちのクリニックで乳ガンの遺伝子検査を受ける人の平均年齢は44歳なの。ちょうど乳ガン検診を毎年受けて欲しい年代の人たちね」 ギリギリ30代の私はドキッとする。そう言えば2年前に1度だけ乳ガン検診を受けたが、その後全く忘れていた。 シェリーは理科の教科書みたいなチャートを取り出し、乳ガンとの関わりが深い遺伝子について説明してくれた。 BRCA1とBRCA2という2つの遺伝子が乳ガンと卵巣ガンに深い関係があり、この一方かまたは両方に「変化」があれば、遺伝子検査の結果は「陽性」となるのだそうだ。 遺伝子に「変化」のある人は、ない人と比べると、乳ガンや卵巣ガン罹患のリスクがぐっと高まり、最高の場合、リスクは85パーセントにもなるという。 85パーセント……。さすがにビビる。 「でもね、結果が陽性でも、ガンになると決まったわけじゃないの。ならない人もたくさんいる。反対に、結果が陰性でも、乳ガンになるひとはいるのよ」 ロシアンルーレットみたいだ。 「乳ガン&胃ガンサバイバー」の母を持つ私としては、もう人ごとではなくなっていた。 「それに、遺伝子検査は誰もが受けるべきというものじゃないの」とシェリー。 たとえば、乳ガンの多い家系に生まれ、母親も祖母も姉妹も乳ガン経験者だったりすれば、検査を受けて自分のリスクを確認する意義はある。 何よりも、乳ガンの家系であることを証明しないと、検査に保険が効かないこともあるのだ。遺伝子検査代は約30万円。好奇心を満たすためだけに払う金額としては高すぎる。
シェリーの担当患者だったルイスを紹介してもらい、早速電話取材してみた。 「私の場合はバリバリの陽性だったの。検査結果を知った時の気持ち? 神様ありがとう! って感じだったわね。人生の地図がもらえたような爽快感よ」 な、なんという明るさ……。それもそのはず、彼女は、実はこの検査前に、すでにさんざん修羅場をくぐってきていたのだった。 5年前、50歳の時に乳ガンにかかり、乳房を温存する方法で手術を受け、放射線、抗ガン剤で治療した。 しかし、本当につらい時期はその時から始まった。 「いつ再発するんだろう?」 そんな恐怖に毎日おびえて暮らしていた。そんな頃、仲良しの友人が乳ガンを再発し、抗ガン剤治療を再びしなければならないと聞いた時、恐怖と哀しみのどん底につき落とされた。その時ルイスはついに遺伝子検査を受ける決心をする。 「もうこれ以上、おびえて暮らしたくないし、再発だけは避けたかった。そのためにはリスクを知るしかないと思って」 「陽性」の結果を見て初めて「ほっとした」のだという。 「最高85パーセントの罹患率って言われたら、もう覚悟は決まるわよ」 ルイスは検査後、迷わず両方の乳房の切除手術を受け、卵巣も摘出した。これで再発のリスクは3%前後に下がった。 「ガンだと診断される前に検査を受けていたら、最初から迷わず乳房摘出手術を選んだと思う。だってそうすれば再発の恐怖におびえなくて済んだもの。早めに検査を受けておけば、治療の選択肢が広がるってことなのよね」 最近ルイスの娘も母にならって検査を受け、結果は「陰性」だった。 娘の検査結果を喜びながら、ルイスはこれからの自分の人生を、めいっぱい楽しむつもりだという。 シェリーによれば、ルイスのような前向きな人がどんどん増えているらしい。 「陽性」の検査結果は「死刑宣告」なんかではなく、反対に、これからの人生のロード・マップにもなりうるわけだ。 それにしても、シェリーのオフィスを見回すと、誰もが女性ばかり。遺伝子の専門家って女性が多いんだろうか? 「実はアメリカでは遺伝子カウンセラーの98パーセントが女性なの。コミュニケーション能力が大切だし、人間が好きじゃないとやってられないシゴトでもあるからかな? ふと周りを見回したら、オンナだらけになってたのよ〜」 謎だらけのDNAの世界をのぞいてみれば、そこは、意外にもヒューマンドラマが主役の、なんだかほっこりする世界でもあった。 |