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「ワタシってなんてダメなんだ……。成績が上がらなかったらどうしよう……」。布団を被ってネガティブ思考のスパイラルにはまりきっていると、なぜか焦げ臭い匂いがしてきた。 そして10分後。ハリウッド映画で見るようなマッチョな消防士が、いきなり私の部屋のドアを蹴破って飛び込んできたのだった。 「GET OUT!!!(すぐ外に出て!)」 毛布にくるまってパジャマ姿でぼーっとしていた私は、その時初めて自分のアパートが火事だと気付いた。 「あんた、このすごい煙に気づかなかったのか……?」 消防士は呆れ果ててそう言った。 その瞬間、私の動物としての本能のスイッチが「カチッ」と入った。 成績よりも100万倍大切なもの、それは「命」だ。落ち込みまくって、危険を察知する能力すら失っていたなんて……。成績表と共に灰になったら元も子もないではないか。 煙の中、パジャマ姿で、消防士の背中を追う。お腹の底からわけのわからないパワーが湧いてきて、おまけに笑いまでこみあげてきた。 結局火事はボヤで、幸い怪我をした住人は誰もいなかった。火災報知器が鳴らなかったことを大家さんに訴えるよりも前に、私は「英語のチューター」探しを始めた。 文法とボキャブラリーをネイティブ・レベルに引き上げるには、ひとりでは無理だ。それならばこの際、プロの助っ人を頼むしかない。 「英語、チューター、シカゴ」
3時間後、すかさず返事が返ってきた。 「I can help you」 翌日、私たちは近所の喫茶店で会った。先生の名はテリー。44歳の女性で、シカゴのコロンビア・カレッジで留学生に英作文を教えている。ノースウェスタン大の言語学学部で博士研究員をしていた経験もある。 「時間がないんです。新学期までに文法を何とかモノにしたいんです」 飲み物を注文するより先に、私はそう懇願した。すると、テリーは笑顔でこっくり頷いて言った。 「では次のものを用意しなさい」 彼女が挙げたのは、ロングマンの英英辞典と『ライターのためのルール』という本。そして小さいアドレス帳にテープレコーダーだった。 「アドレス帳?」 「そう。アルファベット順にアドレスが書ける手帳。そこに今まで間違えた文法やボキャブラリーを書き込むの。あなたが記事を書く時には、その手帳を素早くチェックしながら書く。そうすれば同じ間違いは避けることができるはず。そしてレッスンは録音して後で聞き直して」 その言葉を聞いたとたん、私は「どこまでもあなたについて行きますっ〜!」という気持ちになった。 今までオーリーに「文法をおさらいしなさい」と言われてきたが、何を一体どう勉強すればいいのかまでは教えてもらえなかった。 「君のエイゴはネイティブと違ってヘン」と言われても、ガイジンの私としては「じゃあ、どうしたらいいのよ?!」状態だったのだ。 だが、テリーは15分話しただけで、「あなたが弱いのは、冠詞の使い方とカンマの打ち方、そして前置詞の使いかたと時制ね」とズバリ見抜いた。そして、それを克服するためには「日本人の頭で文法を考えるのをやめて、アメリカ人の思考法を身につけるしかない」と言った。 そのための第一歩として、最初に与えられた課題はこうだった。
さらに、街頭インタビューし、何でもいいから記事を1本書いて持ってくること、という宿題も出た。 そして、翌日から、コーヒーショップでの特訓が始まった。 「“インフルエンザ”という単語につける冠詞はtheだけど“カゼ”の場合はaなの。つまり「the flu」と「a cold」。じゃあ『心臓マヒ(heart attack)』はどっち?」、「手術を意味するsurgery には冠詞をつけないし、ステロイドはいつも複数形で使ってsteroids」 そう、そこがずっと疑問だったんだ〜という点が、次々に指摘され、目から鱗がハラハラ落ちた。 さらに感動的だったのは、私が話す英語の文法の間違いを、テリーがきちんと指摘してくれることだった。外国に住んだ経験のある大人なら誰もが痛感することだと思うのだが、外国人の言葉の間違いを指摘してくれるネイティブの大人はめったにいない。 ほとんどの人は「指摘するのは失礼だから」と間違った文法を優しく聞き流してくれる。しかしその優しさが私たちガイジンの語学上達を阻んでいるわけなのだ。 だから、間違いを指摘してくれる有り難い人ががいたら、その人から絶対に離れてはならない。というわけで、私は当分テリーから離れられそうにない。 |