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「ミホ、明日の金曜日、シカゴを代表する某大企業の取材に行ってくれないか?」 ビジネス・リポーティングの教授、ジョーが、私の肩をポンと叩いてこう言った。 前期の科学班から一転、今期はビジネス・リポーティング班に登録した私。ウォール街やヘッジファンドで働いていた経済通の同級生に囲まれ、「バランスシートって何?」「アーニングス・パー・シェアって何なのよ?」と、日々是無知をさらけ出していたのだった。 ゼイゼイ言いながら、数字まみれの記事を書く外国人学生を見るに見かねたのか、元ウォール・ストリート・ジャーナル紙の辣腕記者だった教授のジョーが、特別アサインメントを振ってくれたわけだ。 「で、某大企業と言うのは、やっぱり、あそこですよね?」と私。 「うむ、そうだ。巨大な黄色のアーチと言えばわかるね。サウスタウンの新聞から記事と写真の注文が来てるからよろしく頼むよ」とジョー。 そんなわけで、シカゴというより、米国そのもののような企業、マクドナルドの設立50周年式典に出かけることになった。 取材の相棒は、日本人シェフの下で働いていた元料理人のケイト。2人で映画『スーパーサイズ・ミー』の話で盛り上がりながらダウンタウンに着くと、巨大な黄色いアーチが目に飛び込んできた。 かつて「ロックンロール・マクドナルド」と呼ばれ、シカゴ人に親しまれていた店舗が、50周年記念の目玉としてリニューアル・オープンする、その式典なのだ。 CEOの挨拶を聞きながら、シカゴのローカル・メディアの面々がうわさ話で盛り上がる。40代で急逝してしまった前CEOは、果たしてどのぐらいの頻度で、自社製品を食べていたのか…。
「きゃー、あなた、日本からでしょ?私カラオケ・クイーンなの!」 真っ白なかつらを被り、マリリン・モンローのコスプレをしたバーバラさんにぐっと手を掴まれた。目に入れたコバルトブルーのカラーコンタクトのせいか、かなり異様なオーラ満開である。 「私ね、昔マクドナルドで働いてたことあるのよ」とバーバラさん。 よくよく聞いてみると、彼女は店員としてではなく「イベント歌手」としてシカゴの北にあるマクドナルドで雇われたのだという。 「歌を歌って1時間50ドル。悪くないでしょう?」と言う彼女。今はラスベガス在住だが、故郷のシカゴに新しいマクドナルドができると聞いて、帰ってきたという。 「本当はどんなヘンな外観の店舗を建てるのか、心配だったから。ほら、シカゴは建築美で有名でしょ。だから気になったのよ〜。思ったより悪くないわね。宇宙時代っぽいわ」 そうかと思えば、近所に住むというデビーさんは、取り壊されてしまった旧ロックンロール・マクドナルドの写真を手に握りこう言った。 「甥っ子がまだ小さかった頃、昔のマクドナルドに連れてきたのよ。その甥っ子たちはもうパパになっちゃうし。時の流れは止められない」 その頃、ドライブスルーには、50年前の同じ日、イリノイ州郊外のマクドナルド第1号店で、チーズバーガーを頼んだという66歳のグレン・ボルクマンさんが赤毛で、黄色いパジャマみたいな服を着た「ロナルドくん」の運転するオープンカーで現れた。 群がる取材陣とテレビカメラ。ドライブスルーの窓からはCEOのジム・スキナー氏が顔を出し、グレンさんにバーガーと飲み物を渡す「シーン」が撮影用に繰り返された。 バーバラさんやデビーさんが開店を辛抱強く待つ間、スーツ姿のマクドナルド社員たちは、すでに店内でくつろぎ飲食しているではないか。
そして店内でスーツを着て歓談しているマクドナルド社員たちはほぼ白人一色。歯までホワイトニングしたように真っ白である。 記念式典でここまではっきりと米国の「階級の差」を見せつけてくれるとは、さすが資本主義100%の濃縮企業、マクドナルド。正直な会社だ。 2階にエスカレーターで上がると、皮のソファが置かれた空間とカフェがあり「コーヒー・モカ」が2ドル20セントだった。スターバックスのコーヒーは1ドル40セントだから、それよりはるかに高い。 「あんな高いコーヒー、誰が買うわけ?」。帰り道、ケイトと私は首をひねった。 「もしかして、ヤッピー層を狙っているとか?」とケイト。 「だとすると、100周年記念の時には、マリリンのコスプレをしたバーバラさんがドライブスルーでコーヒーを買うのかな?」と私。 マクドナルドが半世紀の繁栄とこの世の春を謳歌するシカゴ。 そういえば、このシカゴは『メンズ・フィットネス』誌上で「不健康な街全米5位」の栄誉に輝いたばかりなのだった。 |