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| 朝8時から夜8時までニューズルームで数字漬け。そんな経済リポートのクラスの日々で、数字に弱い脳がすっかり溶けてゲル化していた私だが、ある日、なぜか突然、体内化学変化が起きてしまった。数字がなくちゃ生きられないカラダになってしまったのだった。 朝起きると、顔を洗うより先に、部屋のドアの外に配達されているウォールストリート・ジャーナル紙をわしづかみ、企業の決算報告の記事をむさぼり読んでしまう。 「おお! GM10億ドルの赤字だって〜!これはデカイ!!」と叫び、担当する「食」企業の株価もチェック。 ニューズルームに向かう途中も、穀物取引のメッカ、シカゴ商品取引所のビルを見ると「ふふ、今日も1日数字を追うぞ〜!!」とつい、フルフル武者震いしてしまう。 一体、なぜ急にこんなになってしまったのだろうか? まるで、宗教にはまった危ないヒトみたいである。
「諸君。企業がプレスリリースにどんな形容詞をまぶして経営状態を良く見せようとしても、ボトムラインを見れば一発でわかるんだよ」 ジョーはそう言って「10Q」と呼ばれる四半期決算報告書をめくってみせた。 関係ないが、ジョーのネクタイは「ドル紙幣柄」。いかにも筋金入りのEconガイである。 ちなみにアメリカでは、株式を公開している企業は必ず米証券取引委員会に決算報告を提出しなければならないという決まりがある。この報告書は公の文書だから、誰でも簡単にダウンロードできちゃうのだ。 そこで、ジョーいわく、記者のワタシたちが真っ先にチェックすべきなのが、当期純利益(Net Income)の数字なのだそうだ。ちなみに純利益の数字は損益計算書の一番下の方にあるから「ボトムライン」と呼ばれている。 トップライン、つまり売り上げがどんなに大きかろうと、あらゆるコストを引いた純利益、つまりボトムラインの数字が良くなければ会社としては健康とは言えない、とジョー。 「株主はそこを見てるからね」。 なるほど、数字は嘘をつかないし、企業もこればかりは隠せない。 もちろん、こんなことはこのサイトの読者の方々からすれば「何をいまさら」な基礎知識だと思うのだが、私にとっては目から鱗だった。なぜなら、ちょうどそのころ、私が担当する「食」ビートで気になる企業の決算が出たばかりだったのだ。 企業の名は「Cosi」(コジ)。サンドイッチ・チェーン店で、マクドナルドなどのファーストフード店よりはちょっとグルメな商品とカフェスタイルな雰囲気が売りだ。 そのCosiのボトムラインが280万ドル以上の損失で「真っ赤」だったにもかかわらず、企業がアナリストと株主にむけて行う電話カンファレンス・コールでは、一人のアナリストがこう言ったのだ。 「まず、おめでとうございますと言わせてください!」 え? おめでとう? ……私は自分の耳を疑った。確かに1年前の同時期の数字と比較すると赤字は半分以下に減っているが、それでもこの会社、ここ数年、一度も利益が出たことがなく、ずっ〜と赤字続きなのだ。これって株主的にはどうなの?。
株を大量に売却すれば、一株当たりの価値は薄まってしまう。だいたい、株を売って損益をカバーし続けることなんていつまでできるのか? 早速Cosiの広報に電話してみた。 「あの、御社はいつになったら利益を出す見込みなんでしょうか?」 「それにはお答えできません」と広報氏。「株式を売り出す前の規定のクワイエット・ピリオドで取材は一切受けられないんです」。 うーむ、残念だが仕方ない。 「わかりました。念のために、フルネームをうかがいたいんですが」 「ちょっと、私の名前を記事に書くつもりなんですか!」と広報氏。 「はい。あなたはCosiの正式な広報ご担当で、会社としてはノーコメントとおっしゃいましたよね?」 「そうですが、ちょっと、私の名前を使うのはやめてくださいよ! あなたの記事に私の名は必要ない」。 怒ったような声の広報氏。会社のスポークス・パーソンが名前を使うな、というのは前代未聞である。では、彼は一体何のためにお給料をもらっているのだろうか?。 で、そっちがそう来るなら、こちらも奥の手を使うしかないではないか。CEOにアポなし突撃取材することにした。 週末、私はレストラン協会主催のコンベンションに出かけ、そこにいたCosiのCEOに直接質問してみた。 株に関することは話せないわけだが、そのかわり、ニューヨークのラガーディア空港のアメリカン航空の搭乗口近くに、新たな店を出すと教えてくれた。 「フライトアテンダントたちがサラダを持って歩いてるのを見て、あ、これはいけるかもと思ったからね」とCEOのアームストロング氏。 さらに、アナリストやリサーチャーの意見を聞いてみると、株式売却に批判的な意見と肯定的な意見の真っ二つに分かれた。 「だ、ダメだ。マスコミにコメントするとえらいことになるから!」 そう言われ、何人ものアナリストに電話を切られたが、数字を追うのと同様、いかに彼らの口を割らせることができるかも、だんだんゲーム感覚で楽しめるようになった。 数字もコメント取りも、隠されていることを掘っていくという意味では同じだからだ。
それに味をしめた私は、暇さえあれば 米証券取引委員会のウェブサイトで数字を漁るようになった。 ふふふ。目標はもちろん第2の「エンロン」探しである。当たればピューリツアー賞。ほとんど現代の砂金取りである。 ホント危ないヒトになっちゃったのかもしれない。 |