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11月初めの朝、くりくりっとした大きな目をしっかと見開き、コートニーが、教室に駆け込んできた。 「そうそう。これのことだろ」 ボストン大の学生新聞の記者をしているテーラーが朝刊を投げてよこす。そこには『CNN、ヤラセ質問を認める』の見出しが踊っていた。 「若者は、どうせ政治について真面目に考えてないに違いないから、この程度の質問をさせて盛り上げておけっていうメディア側の偏見が、見え見えなのよ!」 頭から湯気をたてているコートニー。政治記者志望で正義派の彼女の怒りはおさまりそうにない。 コトの顛末はこうだ。若者たちの関心を政治に向けようという趣旨で、全米一の学生街、ボストンで、民主党の大統領選候補者たちと学生たちの公開ディベートが開催された。中継したのはCNN。以前MTVのフォーラムに出演したクリントンに「大統領、あなたはブリーフ派ですか?それともボクサー派ですか?」という質問が飛んだことで、一躍有名になったこの手の公開ディベート。以来、視聴者は学生がどんな突飛な質問を繰り出すかを期待し、まな板の上の鯉である候補者たちは、若い世代にアピールするため、いつものスーツ姿ではなく、ネクタイなしのラフなシャツ姿で登場するのがお決まりだ。 ところが今回、CNNのプロデューサーが、ブラウン大学の女子学生に「PC派かマック派か」という質問をするよう事前に指示していたことが放送後に発覚。当の学生が「本当はもっと他に聞きたい質問があったのに、場が盛り上がらないからと却下され、この質問をするようにいわれた」とブラウン大学の学生新聞紙上で告白し、明らかになった。 「私、ディベート会場にいたけど、PC派かマック派かなんて、そんなしょーもない質問で貴重な時間を無駄にしないでよって、イライラして彼女を見てたの。私に質問させてよって思ってた」と他の学生。 「そうそう!」という声があちこちで上がる。 「え?結構面白い質問だと思ったけど? ま、ヤラセはまずいけどさ」といったのはひとりだけ。 多くの学生は、コートニーの「メディアは、若者をMTVタイプの軽薄イメージでひとくくりにしようとしていて腹が立つ」という発言に、首を縦に振ってうなずいている。 「だいたいさ、若者相手のディベートだから、候補者がスーツを着ないっていうのも、よくよく考えれば、私たちの世代を馬鹿にしてるってことでしょう。私たち学生だって立派な有権者なのよ。失業率や、イラク戦争、愛国者法、教育問題、ゲイの結婚について……。とにかく真剣に聞きたいことは山ほどあるのに、若いというだけで、オヤジ世代から勝手に面白おかしく脚色されてもううんざり」とコートニー。
ただ、哀しいかな、ヤラセ事件が頻発する日本のテレビを見て育ってしまった私は、ヤラセ自体に対しては、正直「ま、ありそうなことだ」ぐらいにしか思わなかった。「またか」という諦めに近い感じ。ニューヨーク・タイムズ紙の記者が堂々と記事をねつ造する時代だ。テレビも新聞もイノセントではあり得ない。 そんな風に感じてしまう私にとって、むしろヤラセを強要された学生が、学校新聞というインディペンデントなメディアでそれを告発したという事実の方が新鮮だった。アイビーリーグ大学の小さな学生新聞が、大メディアCNNの内情をすっぱ抜き、APやボストン・グローブ紙がこぞってそのネタを後追いする。これって、実はかなり痛快なことじゃないだろうか。大きなメディアにリークするよりも、小さなメディアでも自分たちで発信しよう。そんな自主独立の精神が、頼もしくすらある。 今回、多くの学生がヒットだと認めたのは「マリファナを吸ったことはあるか?」という質問だった。 「ねえ、どうしてこういう質問を本職の新聞記者が聞かないのかな?」 誰かがそういった。 本当にそうだ。 いつしか、タフな質問を避けるようになってしまったプロの記者。そして核心をついてくる学生たち。経験はゼロだが、初心というものを確実に持っている学生たちを、プロは、あまりなめない方がいいかもしれない。 |