第8回 米大統領選の真っ直中で大活躍のチビッ子記者たち
大統領候補者を相手に、堂々と鋭い質問を浴びせる地元ニューハンプシャーの若きジャーナリストたち。左から13歳のブリケットちゃん、11歳のシーン君、そして15歳のジョッシュ君。
 ジョージ・ブッシュを倒せる候補者はいったい誰なのか……? いまボストン、いやアメリカ中で一番ホットな話題は、ずばりフットボールのスーパー・ボウルと大統領選だ。
 今後を占う決め手となるのが、東部のニューハンプシャー州の民主党大統領選予備選挙。ボストンからバスで約1時間。真っ白な雪に埋もれたのどか〜な田舎のニューハンプシャーに、世界中のメディアがこぞって集結し、ケリー、ディーン、クラークなど民主党の候補者を追いかけまくる。私たちジャーナリズムの院生も、授業そっちのけで、ニューハンプシャー行きのバスに飛び乗った。
 前回の大統領選で民主党の副大統領候補だったリーバーマンの事務所に着くと、CNNやニューヨーク・タイムズの記者たちに混じって、堂々と質問を繰り出す地元のチビッ子記者たちがいた。

 「ブッシュ大統領が唱えている『全ての生徒が平等に十分な学びのチャンスを得られる政策』というのは、実際にはうまく機能していません。例えば僕たちの学校では予算カットで、遠足が中止になったり美術のクラスがキャンセルになったりしてます。あなたが大統領になったら、こんな現状をどう改善するつもりですか? 具体的に答えてください」。
 11歳の小学生、シーン君がビデオカメラを握りしめ、リーバーマンに詰め寄る。すると次の瞬間、テレビ・クルーは一斉にシーン君の顔のクローズアップを狙ってカメラを向けた。大統領候補者があどけない顔をした子供の鋭い質問にどう答えるか。テレビ的には最高に「おいしい」ショットである。
 もちろんシーン君たちチビッ子記者も、自分たちがメディアから注目を浴びていることは承知の上だ。それを逆手に取って、すべての大統領候補者に会い、インタビューを成功させてきたという。
 あどけない顔をして、実はしたたかなキッズ記者たち。選挙権がない彼らが、オトナの記者と互角に渡りあっている姿はなかなか痛快だ。
 「取材しようと思った動機は何?」と、シーン君に聞いてみた。
 「学校で選挙のしくみは勉強するけど、実際のことはやっぱり現場を見なきゃわからないから」とシーン君、いっぱしの答え。そして隣にいたお姉さん格の13歳の記者、ブリケットちゃんはこういった。
 「日本ではどうだかわからないけど、アメリカでは誰が大統領になるかで、学校に割り当てられる予算がものすごく違うんですよ。裕福な地域はそれほど影響を受けないけど、そうじゃない地域で教育費の予算がカットされると、明日の授業に直接影響が出ちゃう。私たち子供には選挙権がないけど、でも、私たちの生活が左右されるわけだから、やっぱりしっかり見ておかないと」
 びしっと筋の通った答えに感心した。果たして自分が13歳の時に、こんなしっかりしたことがいえただろうか?彼女と同じ歳の頃は、部活に明け暮れていて、学校の予算が自分の生活にどう影響するかなんて、考えたこともなかったぞ。
 「それに、やっぱりお祭りみたいでエキサイティングだしさ。いつもは静かなこの街にすごい数の記者たちが来て、大騒ぎだもん。参加しない手はないでしょ」
 シーン君が笑ってそういった。

ニューハンプシャーの予備選挙でケリー、ディーンに続き、第3位になった元軍人のクラーク氏。イラク戦争については「必然性のない戦争」と断言し、ブッシュ政策を批判。

 そんな豆記者たちを後ろでニコニコと見守っているのが、地元の中学の校長先生、ロジャーさんだった。今回は15人の生徒が取材に参加し、選挙戦の現場を生で見て、それを2000字程度のレポートに書くことになっているのだという。前回、記者として参加し、今は高校生になった15歳のジョッシュ君が、ボランティアとして後輩のシーン君たちの面倒を見ているのも微笑ましい。
 「政治家が何をいうか、そしていったことをどう実行するか、そのあたりを実際にしっかりウォッチングすることは、子供たちにとってもすごく意味があることだと思うんですよ」と校長先生はいう。こういうフレキシビリティーある先生がいるのが、アメリカの学校のいいところだ。
 「でも、日本からわざわざ大統領選を取材しに来るってのもすごいわね!」とブリケットちゃん。
 「誰が大統領になるかというのは、アメリカだけの問題じゃないもの。私の国、日本にとってもすごく大きな影響があるし。例えば、今回、日本の自衛隊がイラクに派遣されたけど、これもアメリカの影響を受けてなの。だから日本にとってアメリカの政治は他人事じゃないの」
 そういうと、いきなりシーン君がカメラを私に向けてきた。
 「みなさんこんにちは。特派員のシーンです。では、はるばる日本からこの街に取材に来たジャーナリストのミホにインタビューします。まず、日本のひとびとは、ブッシュ大統領をどう思っていますか? 自衛隊の派遣について、あなた個人はどう思いますか? そして、誰が次の大統領になれば、日本にとって一番メリットがあると思いますか?」
 咄嗟に答えを頭の中で整理しているうちに、ペンとノートを手にしたボストン大の仲間にぐるりと周りを取り囲まれてしまった。
 「どう答えるのか、じっくり聞かせてもらうよ〜」と仲間のひとり。
 ネタに飢えた若きアメリカ人記者たちの前で、ごくりと唾を飲み込む私。この時、マイクをつきつけられる政治家の気持ちがほんのちょっとだけわかったような気がした。