【 file106 検事 】
検事は、被疑者の起訴・不起訴を決定する権限を持っています。そんな重責を果たすためには、高度な法律知識と強い正義感が必要。今回は、大阪地方検察庁に所属する山口智子さんにお話を伺いました。
■■ プロフィール ■■

【 山口智子さん 】

●検事歴8年。39歳。弁護士の夫と二人暮らし。
●「実は、いまでも司法試験の夢を見ます。試験直前に『何も勉強してなくて、どうしよう』と焦る夢。同僚に聞いても同じみたいです」


【検事の仕事内容】

被疑者の取調べなどを行い、その被疑者を起訴するかどうかを判断。起訴した後は、その裁判を遂行するのが、検事の仕事です。

山口智子さんは、現在、大阪地方検察庁刑事部に所属。医療過誤特殊過失(注)による事件の担当ですが、そうした事件がないときは、通常の刑事事件も担当しています。
※注:「特殊過失」とは、2007年5月エキスポランドのジェットコースター事故のような、交通事故以外の特殊な過失をいいます。

刑事部検事の主な仕事は、被疑者の刑事処分を決定すること。具体的には、被疑者が逮捕され、その事件の担当となると、まず警察から送致された捜査書類や証拠を確認。必要な場合は、裁判所に被疑者の勾留請求を行います。そして、被疑者を取り調べたり、被害者や目撃者などから事情聴取を行うとともに、必要な捜査を警察に指示。最終的に、被疑者を起訴するかどうかを決定します。「事案の真相を解明するというだけでなく、被疑者、被害者、事件の関係者の話をよく聞くことが大切です。各自がそれぞれの立場で納得できる解決を目指しています」

なお、一般に言われる「検事」とは、「検察官」の職階の一つ。検察官には検事のほかに、検事総長、次長検事、検事長、副検事などがあり、最高検察庁、高等検察庁、地方検察庁などに所属しています。


【検事への道】

検察官・裁判官・弁護士のいずれを志望する場合も、司法試験合格後に、同じカリキュラムの「司法修習」を受けます。そして、最後に「司法修習生考試」と呼ばれる国家試験に合格し、検察官を選択すると、検事として検察庁に採用されます。

現在は、2006年より実施されている新司法試験と、2011年に廃止される旧司法試験が、並存して実施されています。新司法試験を受験する場合は、法科大学院(ロースクール)課程を修了していることが必須であり、その後5年度内に3回以内で合格しなくてはなりません(その他、制度の移行期間中ということで、いろいろな規定あり)。

山口さんが検事を志したのは、高校生の時。「様々な事件を見聞きする中で、被疑者や被告人の人権が強調される反面、被害者の人権が軽視されているように思いました。検事になれば、被害者から直接話を聞いて心情を理解し、被疑者に被害者の悔しい思いを伝えられる。そして、相応の刑事責任を取らせることができると考えました」

そこで、大学は法学部へ入学。しかし、真剣に司法試験の勉強を始めるのが遅くなり、合格率2〜3%という最難関の司法試験合格までは長い道のりだったそう。「いつ受かるとも分からないプレッシャーや、将来への不安と闘う日々でした。26歳で結婚して主婦をしながらも勉強を続け、30歳でついに合格。最後の1年は1日12時間くらいの猛勉強をしました」

旧司法試験を受けた山口さんの場合、司法修習は1年半。埼玉県和光市にある司法研修所で、最初の3カ月間は実際の記録に触れ、裁判官・検事・弁護士の立場から、それぞれ判決文や起訴状の書き方などを学びました。さらに、京都の裁判所、検察庁、弁護士事務所で実務を学んだ後、再び和光の研修所で3カ月間、勉強。そして、司法修習生考試を受けて合格し、検事になりました(2000年当時、司法修習生約800人のうち1割弱の75人が検事に任官。うち女性は10人)。

<現在までの経歴>
00年10月 東京地検 新任検事として刑事、公安、交通、公判部
01年4月 大阪地検 刑事部と公判部を半年ずつ
02年4月 福岡地検小倉支部 1年目は交通・少年係、2年目は暴力係
04年4月 大阪地検 1年目は刑事部、2年目は特捜部
06年4月 神戸地検尼崎支部
1年目は公判担当(半年間仏パリ研修)、2年目は捜査担当
08年4月 大阪地検刑事部

【山口さんの一日】
<取調べなどを行った、ある日の場合>
7時半: 起床
9時半: 大阪地検出勤、上司に事件報告・決裁
 10時: A警察署からの医療過誤事件相談
11時: B警察署からの医療過誤事件相談
12時: 昼食
13時: 殺人未遂事件等の被疑者取調べ
14時半: 上司に事件報告・決裁
15時半: C警察署からの放火事件相談
16時: 殺人未遂事件等の参考人取調べ
18時半: 報告書等作成
20時半: 友人と会食
24時: 帰宅
25時半: 就寝

【山口さんにお話を伺って…】

正義感があって、精神的にも肉体的にもタフな人が検事に向いている、という山口さん。「勤務時間は、配属された地検や部署、抱えている事件の内容等によってばらばらです。特捜部にいた時は、土日もなく毎日、深夜まで働きました。出産し、子育てしながら検事を続けている女性検事はたくさんいますが、家族の理解が必要かと思います」

最も難航するのは、取調べだとか。「複雑な脱税事件の共同捜査に加わった際、頑強に否認し、反権力を標榜する社長の取調べを担当しました。考えられる手を尽くして相手の心に入っていこうとしても、どうしても真実を語りません。勾留延長満期が迫ってきたころ、経験豊富な主任検事の多大な助力により、ようやく自白を引き出すことができました。自分が担当する被疑者が真実を語ってくれないことの苦労、プレッシャーというものは相当なものでした」。一方、事件の被害者からの感謝の手紙、被疑者からの更生を誓う手紙を受け取った時には、それまでの苦労などが報われたと思えるのだそう。

1年後に施行される裁判員制度について、山口さんに伺いました。「生の事件に接すると、事件をより身近なものに感じます。被害者や遺族の気持ちを理解することは、ひいては防犯意識を高め、犯罪抑止にもつながるのではないでしょうか。テレビドラマで見ることはあっても、普段、接することのない貴重な機会です。1人で判断するのではなく、3人の裁判官と他の5人の裁判員と話し合って決めるわけですから、裁判員に選ばれた場合は、不安がらずに積極的に参加してほしいです」


◎検察庁
http://www.kensatsu.go.jp/

◎裁判員制度
http://www.saibanin.courts.go.jp/


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